アイヤッパへの道 vol.3

2017.07.08 (Sat)
第三話 Drishti Bommai

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到着して二日目、ハイウエーを挟んでホテルの向かいにある小さな村を訪ねます





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幹線道路から一歩入ると、そこは数軒の平屋が点在する静かな村。開発から取り残された人々がささやかに暮らしています。





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コの字になった道を挟んで、土埃の舞う荒れ地に二十軒ばかり、ブロックやレンガで積まれた簡素な家がぽつんぽつんと点在しています。





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カメラを提げた東洋人、遠目で見ていた村人はそんなよそ者にも優しく微笑んでくれます。
「ナマステ、フォト・プリーズ」
彼には写真をあげるよと約束したのに近くに現像屋もなくついに手渡すことができなかった。
また会いに行かなきゃな






Drishti Bommai




新築現場につるされた不気味な人形、壁には舌を出した真っ赤な鬼のお面も見えます。
ドゥリシティ・ボゥマイ、邪気を払うおまじないです。






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Drishtiとは邪視のこと、英語で言うと『Evil eye / 邪悪な目』、嫉妬や羨望が人に災いをもたらすという民間信仰です。あのお面は自動車やトラックのフロントなどいろんな場所で見ることができます。つるされた人形は新築の家の中に獣が入ったりしないようにという案山子の意味もあるようで、ただし北のほうでは見たことがありません。
ドゥリシティから身を守る方法は地方によっても、またその対象が家だったり車だったり人だったり、動くものなのか動かないものなのか、生きているのか命のないものなのか、様々な状況により異なってきます。北インドではあの真っ赤な仮面も見ませんでした。その代わりにライムやトウガラシを糸で縛った魔除けを玄関先で見ることができます。
ちなみに家が出来上がった時にはあの人形は邪気と一緒に燃やされてしまいます。お面のほうは壁にかけたままドゥリシティから家族を守ることになります。



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多すぎる『おめでとう』が受けたものに災いをもたらす。人類学者、マルセル・モースが『贈与論』で紹介した「ハウ/物の霊」に似ています。贈り物、タオンガ/taongaに宿ったhau/物の霊をため込んでしまう、クラ/Kura(交易)の風/Hauを止めてしまうとそのものに災いが起こる。多すぎるおめでとう、溜まってしまった「Drishti」が人を取り殺すわけです。モースの著書『贈与論』に沿って改めてインドの現代社会を見てみると、インドの経済というのはモースの言う「potlatch」、富の再分配をいまに継承する、ポトラッチを現代に具現化した経済活動に他ならないように思えます。すぐに思い出すことができる事例、近近の出来事で記憶に新しいものとしてはタタ財閥の製造販売した大衆車、「タタ・ナノ」の存在ではないでしょうか。このプロジェクトの発案者であり総責任者のタタ・ラタン会長はこの事業に関して自社の利益を二の次に、けっして裕福ではないインドの大多数の大衆に向け、自動車という現代の利便性、社会インフラとしての乗用車という財産を分け与える決断を下しました。結局事業としては大赤字で大成功というわけにはいかなかったようですが、この辺の考え方は同じ新興国である中国とは大いに違うところ、インド人の持つ美徳の一つといえるかもしれません。
そしてその美徳の恩恵に大いに浴することになった少彦名、今回の私のインド旅行こそがまさにその『ポトラッチ』なのです。私を招待してくれた友人はこの私に対して見返りを期待することは全くありません。無償の善意によっていま私はこの国にいるのです。



もし、分け与えることなく私利私欲のために貯めこみしまい込んだ食物をとる者があれば、

「食物の本質を殺し、また摂られた食物に殺される」

マハーバーラタ、ブラーフマナの教義に見える言葉です。
また私はマハーバーラタの言葉を借りてこうも言う。

「王よ、王から物を貰うのは、はじめは蜜のように快いものだが、終わりは毒になってしまう」

私が多くの人から受けた恩恵に報いる日はいつか来るのでしょうか?






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改めて贈与論を読むことになるとは思わなかった。
学生当時は何か遠くで起きていることのように、ただ知識の充実という自尊心のためだけに、いやいや読んでいた気がする。それが何年もたってふとした拍子に腑に落ちるという事もあるものだなと。辛いカレーを食べ続けて、甘すぎるインドのお菓子をほおばり続けて「いったい、これのどこが美味しいというのだろう?」などと思いながら旅のバスの窓をふと見上げると突然にひらけるデカン高原の、あの抜けるような青い空、すっとそれら郷土料理の本当の味と秘められた意味を突然のように理解する。
キザな言い方をすればそんな感じでしょうか。






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女の子のように見えますが実は男の子、ある年になるまで髪の毛は切ってはいけないのです。日本でいえば元服、七五三みたいなもの。もうそろそろこの子も元気に育ったお祝いに丸坊主にされる時が来ます。
彼の額とほっぺにある黒いあざは墨でわざわざ書かれたもの。これも代々伝わる魔眼除け、Drishtiの一種です。ほっぺにあるのがドゥリシティ・マイ、額がドゥリシティ・ポット、maiはインクのこと、単にPottuというと既婚女性が額につけているあの赤いワンポイントになります。
幼い子に黒いあざをつけるのはあまりにかわいいと鬼や悪魔に連れてかれてしまうから。大事な我が子をケガや病気から守る大事なおまじないです。




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この子たち姉弟は元服が終わったようですね。

細かいことですが『Drishti Bommai』の Bommai は直訳すると『オモチャ』の意味。ここでは単にモノ、グッズぐらいで理解してください。悪運を払うためにお祈りしたりお寺回りをする行為も Drishti と呼ぶので形があるものとして Drishti Bommai と区別して呼ぶようです。





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先ほどの元服前の男の子の家のキッチン
後ろに積んであるのは牛のフンを乾かしたもの。これが火を起こすときの燃料になります






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この子は大きくなったら何になるのかな。
声をかけても何も話さなかったけど村の途中まで見送ってくれました。





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村の入り口のシバ神の祠。
しばらく木陰で犬たちと一緒にまったり
今日はほんの一、二時間、ちょっと歩いただけで思いのほか充実した時間を過ごすことができました。
さて、ホテルのみんなはもう起きたかな。起きていたとしても夜まで部屋でダラダラしてるんだろうし、どうせだらだらするんだったらこの子たちとのんびりしてたほうがいいな。両親そろって5匹の家族。生まれたばかりの三人兄弟、あんまりかわいいと日本に連れて帰っちゃいますよ。

しかしそこはさすがに血を分けた親子、見ての通り見事にシンクロしていました。






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Boom boom madu






どこかで聞いたようなメロディーですね。『Boom boom madu』タミル映画の一場面、『Boom』は首を振る様子、『madu』は牛のこと。装飾された牛と一緒に街を流して日銭を稼ぐ占い師です。Drishti、邪気払いの一つです。

占い師 「この家には近々いいことがあるかな」
牛 「ウン、ウン、良いことがきっとありますよ」

家の玄関先で歌を歌いながら。でも最近はアパートが多くなって訪ねる場所が減ってしまってほとんど消えてしまったそうです。そもそもあまり高級なお仕事ではないようでただただ横で首を振る牛の様子が転じて、イエスマン、太鼓持ちのことを「Boom boom madu」とタミルでは軽蔑して使うそうです。

そういえば日本で首を振る牛の人形といえば「赤べこ」
気になって由来を調べてみたら
「天正年間、蒲生氏郷(がもううじさと)が殖産振興のために招いた技術者から伝わった」
とありました。
さて、その赤べこを伝えた技術者とはどこから来た人たちだったのでしょう。そこでさらに蒲生氏郷を調べてみたらキリシタン大名とのこと、ヨーロッパの宣教師ともしばしば交流を持っていたようで、もしや彼ら、殖産振興の技術者とは西洋の船に乗せられてやってきたインドからの奴隷たち?、いわれてみれば赤べこの全身は目の覚めるような赤い色、『Drishti Bommai』の燃えるような舌の色のようです。さらによくよく見ればあの赤べこの体にある黒い点は?見送ってくれた男の子のほっぺたにあった『Drishti mai』のようでは・・・・・

これ以上脱線するのはよしましょう。
第三話でこのボリュームじゃ一生かけてもアイヤッパにはたどり着けない。





John Lee Hooker - Boom Boom




寄り道ついでに
『BOOM BOOM』といえばこの曲、一時期よく聞いてました









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4匹目の小犬 / 犬にまつわる不思議な話

2015.11.03 (Tue)
この間、ある人にこの話をしてあげたのね
そうしたら

2015.05.28 (Thu)の記事



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写真はももの去年生まれた子。
飼ってあげたいと思ったけど一人暮らしだから寂しい思いもさせてしまうと思って。
この日が里子に出す最後の日








「4匹目の小犬」


たしかその日は今日のように晴れた気持のいい朝だった。


私はとある都営住宅の一室を訪ねるところ。一番に問い合わせの電話があり、その足でメモした住所を尋ねてきた。
そこは都内の公営アパート、芝生に落ちるこぼれ日を横切り、うす肌色の鉄製のドアをノックするとすぐに扉が開いた。年のころは50過ぎのこぎれいなご婦人、その後ろから何匹かの子犬が勢いよく駆け寄ってくる。

 「あらあら、ダメですよ。ごめんなさいね!せっかくの背広に・・・・・」
 「いいんですよ、私、犬好きですから」

ペットがいる家に招かれた営業マンのいつものやり取り。ご婦人と二人で隣の和室に小犬たちを追いたて、ぴっしゃっとふすまを閉める。
さてと、今日の営業はキマッタも同然だ・・・・

彼女の現状を聞きだして其れに対する解決策を提示する。商談は問題なくすんなりとすすむ。客のほうから電話をかけてきたアポイント、決まらないはずはない

 「では、明日、お見積もりと、あわせてご契約書をお持ちいたしますのでよろしくお願いします。ただ、私のほうが明日予定で埋まっているものですから、私の部下に担当させることにいたしましょう。それでもかまいませんでしょうか」

小一時間ばかりで仕事は片付けて、となりの部屋に閉じ込めていたシー・ズーたちを居間に招き入れた。

 「おや?」

飛び出してきたのは三匹の小犬たち、確か追いやったときには4匹いたはずなのに。

 「あれ・・・・一匹足りないようなんですけど」

隅っこに隠れていないか隣の部屋をきょろきょろと覗き込む

 「あら、本当!やっぱり見えましたか。」


彼女の顔がぱっと華やいだ

 「実は先月、一匹亡くしたばかりで・・・・・」

そういうと、彼女は肩越しに振り返ってテレビの脇の写真を指差した。
そこにはじっとこちらを見つめながら首を傾げる可愛らしい白い小さな犬がうつっていた。

彼女はこのアパートに一人暮らし。三匹の犬たちに囲まれているとはいえ、やはりいとおしい愛犬を亡くした傷は察するに余りある。
写真の子がいなくなってから一ヶ月。
誰もいない部屋で鈴の音を聞いたり、足にじゃれ付いてくるのを感じたり、みんなと楽しそうに遊んでいる姿が見えたり。
色々と不思議なことが日々おきるそうだ。


 「やっぱりいるんですね。本当にここにいるんですね!」

彼女は飛び上がらんばかりに喜んでいた





さて、次の日の午後、部下を例のお宅へ行かせて4時間は経つ。契約は問題なくいただけただろうか?
そのとき携帯がなった。

 「どうだ。うまくいったかい?俺がすべて段取りしたんだから、今度、ビール一杯おごれよ」

 「見ちゃいました」

 「は・・・・」

 「見たでしょ、課長も・・・・4匹いたのに・・・・出てきたら、3匹なんですよ・・・・」

彼には昨日のことは話していなかった。なぜかわからないが、きっと彼も同じものを見るだろうなという確信みたいなものがあったから。

 「何で言ってくれないんですか。そしたら俺、絶対行かなかったのに・・・・・」






後記 2015.11.4
先日、インド映画のロケで東京に向かう車中、撮影で知り合った女性にこの話を聞かせたら「それ、パクリでしょ」と言わんばかりにネット上のどこかのサイトで読んだことがあると言ってました。怖い話ばかり載せたサイトだったと記憶しているそうです。もうすでにどちらかで転載されてある程度広がっているのだと思うと不思議な気分です

このまま怪談の定番になったり都市伝説化したりしたら面白いですね。どこかで出版でもしたらしっかり印税もらおうかしら。念押しですがこれは実話です。発信元が「私」というのは実に愉快なものです



もも

2013.05.09 (Thu)
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ももと会ってから一ヶ月
今日は始めてのお散歩です






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ぐいぐいと引っ張ります。
飼い主のおばちゃんは足が悪いのでなかなか散歩には出られません。
なのでグイグイとひっぱります!









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裏山に出て一休み。

ももはもともと捨てだそうです。
本当は保健所で処分させられるはずだった子です。
だから絶対に車には乗りません。

今日はじめてお散歩、実は体に触らせてもらえたのもついこの間です。
彼女は男の人が大嫌い。会ったときはは逃げ回ってぶるぶる震えていました。きっと昔、とても怖い目にあったのでしょう。

この村で、ももに触らせてもらえる男性は僕一人です。実に光栄です。






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山間の日暮れ時。
しばざくらをバックに満足げなもも。私も満足です。








今日は大きめな文字で書いてみました。
文字が大きいとなぜかほっとします。

ということで今夜はが登場するほんわかとしたPVのご紹介



Electric Car - They Might Be Giants with Robin Goldwasser


20年以上、独自のスタイルで活動しているニューヨークのバンド。
ニューヨークといえばトーキング・ヘッズ (Talking Heads)だとか、ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド (The Velvet Underground)だとかラモーンズ (Ramones)だとかローリー・アンダーソン(Laurie Anderson)だとか、とても個性的なアーティストが多いのだけれども、今日紹介するゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ (They Might Be Giants)も彼らに負けず劣らずとっても個性的なすばらしい音楽集団。
彼らの楽曲を目の前に並べてみると、それは、多様多彩でユーモアにあふれ、大胆で且つきめ細やかで、パロディーかと思えば実に真剣で、おふざけのようでいて、実力派。やさしいと思えばとても残酷で、ノスタルジックでとっても新しい。相反するもが同居し混在する、まさにおもちゃ箱をひっくり返したようなわくわくする音楽たちだ。彼らのパフォーマンスを目の当たりにすると音楽ジャンルなんて本当にばかばかしいことのように思える。
彼らのコンサート(野外も多いようです)は子供たち、家族ずれの熱気でいっぱい、踊り狂う子供の歓声で割れんばかりだそう!是非、一度行ってみたいものです!!

ちなみに、音楽アルバムと同時にDVDも出しているのですが、こちらの仕上がりもPVを見てのとおりのすばらしい出来栄え。
子供の『英語教材』にぴったりだよ。




ついでにこちらも

Laurie Anderson - O Superman


こちらは、同じくニューヨークで活躍するローリー・アンダーソン(Laurie Anderson)さん。
最近ルー・リード(Lou Reed)と結婚したんだよね。






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水槽引越し 計16ケース

2013.04.13 (Sat)
さよなら東京P4130950a.jpg


今日は、水槽の引越し。16ケースをはるばる東京から移動するという一大イベント!輸送費はナントうん十万円!!買い換えたほうがはるかに安い!!!




とその前に....

P4131012a.jpg    この村で最初に私を出迎えてくれたのが彼女、名前はモモ。





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のっはらに群生するアサツキ
昨夜は摘み取ったものを天麩羅にしていただきました
ちなみにバックは福寿草。こちらは猛毒、食べちゃいけません






で、引越しはというと.....

     到着したのが夜の9時....... P4131019a.jpg

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飼育水もポリタンクで移動。終わったときには深夜2時を回っていました。皆さんお疲れ様でした。




今回がんばってくれた業者さん
アクアリンク株式会社

http://www.aqualink.tv/index.html





では、ここで一曲
Camera Obscura
/ Lloyd, Im ready to be heartbroken





さよなら東京!さよなら歌舞伎町!!





Camera Obscura (1996~ )
憂鬱そうに歌うのはTracyanne Campbell嬢。どこにでもいそうなスコットランドの田舎娘。美人じゃないけど心配したくなる女の子。音のほうはキャッチーでシンプル、演奏もそこそこ、ありがちな路線だけど歌心があって、PV含めてなりきり度100パーセント。"Lloyd, I'm Ready to Be Heartbroken" はサードアルバム『Let's Get Out of This Country』に収録されてます。他にも"French Navy"とかいい曲あっておらは好きだ。





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