たこ八郎

2018.08.05 (Sun)
4c0a36f8_1376315474694.jpg




ある日、いつもの公園から帰ってくると家の中がすっごく臭かった。
昼間からカーテンを閉めて薄暗いリビングに母親がこっちを向いて鼻をつまみながらソファーのほうを指さして苦笑いしている。
並べられたソファーには見たこともない浮浪者がいびきをかいて眠っていた。

それがたこさんとの初対面だった。

たこ八郎。本名、斎藤清作。元日本フライ級チャンピオン、日本屈指の名コメディアン。父とは同じボクシングの仲間、一つ下の後輩、階級も彼のほうが軽い一つ下のフライ級。
現役の時はよくスパーリングの相手をさせられた。させられたというのもたこさんとやるのが本当に嫌だったそうだ。父のほうが彼より一つ重いバンタム級(当時はスーパーフライ級という階級はありませんでした。1980年新設)。当然試合をすれば圧勝なのだが、たこさん、これがどれだけ打ったって倒れない。打たれても打たれても手をぶらっと下げたままノーガードで頭から突っ込んでくる。しまいには相手が根負けしてみんなリングから逃げだしちゃう。『あしたのジョー』、矢吹丈のモデルになった伝説のボクサー。

たこさんは僕のことを『お坊ちゃん』と呼んでいた。お酒を飲むとすぐに酔っぱらった。というかお酒を飲んでないたこさんを見たことがない。酔うと子供の時の話ばかりした。僕のような子供を相手に楽しそうにお酒を飲んでいた。飲めば故郷が懐かしいとこぼした。終いにはいつも必ず泣き出した。おねしょしたカーキ色の作業ズボンを母親が洗ってた。

「お坊ちゃん、子供のころ、学校帰りに、毎日、麦畑に寝転んで、あの青い空を眺めながら、あれだよ、オナニーをするんだよ。きもちよかったなあー。あの真っ青な空。あの日に帰りたいなぁ。本当にあの青空はきれいだったなぁ。」

そういいながらいつものようにおいおい泣いていた。母親はたこさんがいるときはいつも黙って苦笑い。私は、とっても嬉しそうに話すたこさんが実はとっても寂しそうなんだなって。昼間、父が留守の家でたこさんの相手するのは私。酔っ払いのわけのわからない苦だ話になぜだかいつまでも付き合ってた。父ら友人の間では「迷惑かけて、ありがとう」というのが合言葉のようだった。  

ある日、明日CMの撮影がハワイであるので飛行機に乗らなきゃいけないという日に、家で、前日から飲み続けてべろんべろんに酔っぱらってて。仕事に行きたくないよーっ、て子供のように駄々をこねた。母親がタクシー呼んで無理やりに車に押し込めた。
「空港に行くにはね、こうこうこの電車に乗って、この時間には間に合うようにこうしてああして・・・運転手さん、お願いしますね。」
次の日たこさんから電話がかかってきた。飛行機に乗り遅れたって。山手線で眠りこけてぐるぐる回ってる間に飛行機、飛んでっちゃったって。
こんなこともあった。
カルビーだったかな?ポテトチップか何かのCM撮りでスポンサーの社長に製品の感想を聞かれたら、「おいしいけど、ちょっとしょっぱいね」って。
結局CM降ろされちゃった。

忙しくなって顔を見せなくなっても、よく電話だけはかけてきた。

「たこです。え、っと・・・・清作です。お坊ちゃまでいらっしゃいますか?お母上はいらっしゃいますか。」
「はい代わりました、はい、そうよ。仕事行ってる?ちゃんと食べてる?お酒ばっかり飲んでちゃだめよ。ご飯ちゃんと食べなさいね。」

ー 何の電話だったの?
ー 今何時かって、家に時計がないんだって。 
  
たこさん、他の人の話は駄々をこねて聞かなかったけど母親の言うことだけは素直に聴いていた。  




それから何年かしたある夏の日、たこさんが死んだ。お酒を飲んだまま海に入ってそのまま帰ってこなかった。
その日から直前、ここ半年、一年間はたこさんからかかってくる電話は長電話が多くなっていた。いつも母親は困ったような、深刻な顔で親身になって相談に乗ってあげていた。
電話口でいつも泣いていた。結婚するのがどうしてもいやだって。あるひとにずいぶんと言い寄られて、それこそ家にまで押しかけてくるようで困っているって。確かそのころはほとんど彼女と一緒に暮らしてたみたい。たこさんもその人がとっても面倒見のいい、良い人で好きだって言ってたらしいけど、でも自分には結婚する自信がないんだって。怖いんだって。いつまでも自由でいたいんだって。相手は名前は出さないけど、今でも芸能界で活躍してるあの人。母親はたこさんの話を聴きながらその彼女のことをずいぶん強引な人だと怒ってた。
           あき竹城   自殺
亡くなる一か月前は特に頻繁に電話がかかってきた。毎週、それこそ毎日。そして、あの日、たこさんは戻ってこなかった。私たち家族の間では、口には出さないけど、みんな、たこさんは自分で行っちゃったって思ってる。
たこさんの思い出。いやだなって思ったのは最初の日の、あの酒臭い、お風呂にも入っていない、強烈なあの匂いだけ。
ただただ思い出すのは人のいい笑顔と子供のようなあの泣き顔と。


夏の青空の下、いつものように酔っぱらったまんま、たこさんは自由の海に帰っていっちゃった。






 Somewhere over the Rainbow - IZ
  
 


イズラエル・カマカヴィヴォオレ
Israel Kaʻanoʻi Kamakawiwoʻole 愛称“IZ”ハワイアンの伝説的歌手。38歳の若さで死去。たこさんと一緒で神様に愛された人。
この曲、前にも紹介したけど、たこさんのための選曲となるとどうしてもこの曲しか思いつかない。僕も何かあると彼のアルバムを引っ張り出して聞いている。今も聞きながら涙が出てきて止まらない。

本当は日本ボクシング連盟の話を持ってこようかと思ってたけど、僕のたこさんと同列に書くにはあまりにあの会長は低俗すぎて。
たこ八郎の、斎藤清作さんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

たこさん、ブログになんか書いちゃって、ごめんね。







関連記事
スポンサーサイト

トラックバックURL
https://pygmysunfish.blog.fc2.com/tb.php/285-06b9af46
トラックバック
コメント
たこ八郎さん、覚えています。
強烈な、というか変わったキャラクターだと思っていましたが、生まれたままの人だったんですね。
少彦名さんには、たこさんとのそんな濃密な思い出があったとは。貴重な思い出ですね。好きだった女性はダンサーで女優さん?

お父さまもボクシングをされていたとは。
格闘技の世界は何も知りませんが、連盟会長の映像を見て、○○映画のワンシーンを見せられているようで本当に驚きました。
若い人が真っ直ぐ精進できる環境を作ってあげたいですね。
雨宮清子(ちから姫) | 2018.08.05 14:37 | 編集
ちから姫様

この記事は、書くか書かないかずいぶんと悩んでいたものです。というか、書いてもだれも得しないネットの小さい記事にわざわざ書いて、彼女だってもしかしたら目にするかもしれないし。でも、今こんな感じでしょ。こういう純粋な人もいたって事書いておこうかって思いました。きっとたこさん見たらすごい怒ると思うんだけど。
彼女ってその人です。たこさん、ずいぶん気持ちが揺れてたみたい。なんか今思うとうら若き乙女みたい。結婚することに決めた!ていったかと思うとやっぱりだめ…みたいな。
天使みたいな人でしたよ。テレビで見るあのまんま。飾ることなんて何にもない裸の人でした。
sukunahikona | 2018.08.05 14:56 | 編集
就職したときだと おもったけど
 仕事仲間と 海水浴行って 飲みながら 泳いでたけど
  ちょっと 控えめに 飲んでましたね
いい人でしたよね
北海道のくま | 2018.08.06 17:40 | 編集
こんばんは。
素敵なお話を共有してくださったことに感謝します!
「ボクシングの選手」には心根の純粋な人が多い印象ですね。
yokoblueplanet | 2018.08.06 20:06 | 編集
こんばんは~sukunahikonaさん
タコ八郎さんって方はそんな方でしたか^
個性的なかただな~ってみてました。
海でなくなつたてお聞きしたときはびっくり
いたしました。
sukunahkonaさんご家族とはご縁が深かったのですね!
真面目にボクシングしてらして強くて素晴らし方だったんですね!
今問題になってる会長さんわからない方です(´;ω;`)
よっこたん | 2018.08.06 20:22 | 編集
矢吹丈のモデルさんがいたとは知らなかったです。
ぶらりノーガード戦法懐かしい。
どの思い出にも、たこさんの人柄が感じられて、
ご家族とのつながりもあたたかくて、
なんだか夢のような記事でした。
教えてくださってありがとうございます。
IZさんの曲も映像も、あったかかったです。
ナカリママ | 2018.08.07 08:36 | 編集
北海道のくま さん

泳ぐときは飲んじゃダメです。
たこさんは子供心に飲み過ぎだなって思えるほど際限なしでした。
sukunahikona | 2018.08.07 22:50 | 編集
yokoblueplanet さん

ボクシングは殴り合いですもんね。きっと、スポーツとしてやってみると相手の痛みがわかるんでしょう。
公にするには随分と悩みました。今度の事件がなかったらきっとお蔵入りでした。
sukunahikona | 2018.08.07 22:52 | 編集
よっこたんさん

あの会長は問題外です。そもそも日本人じゃないですからね。感覚が違いすぎる。
たこさん、天使のような人でしたよ。ほんとにだらしない人でしたけどだれも迷惑なんか思わない不思議な魅力の人でした。でも、なんかのきっかけに目つきが気っとなる瞬間があって、今思えばやっぱり一流のファイターだったんだなって思います。
いい人とかそういう枠組みを超えた人でした。

sukunahikona | 2018.08.07 23:10 | 編集
ナカリママさん
明日のジョー、そうらしいよ、みたいなことは父の友人の間でも言ってました。
私たちの間ではたこ八郎じゃなくって『清作』でした。タモリや赤塚不二夫やビートたけしがたこさんたこさん言ってるのと違って『清作しっかりしろ!!』みたいな感じでなんかいい気分でした。我が家と懇意だったのは父親が先輩ってことは大いにあるのですが、きっと母親のことを慕ってたんじゃないかなって、甘えてたんじゃないかって思う節があります。自分でいうのもなんですがなかなかの美人でしたし。今回書くにあたって動画とか見返したんですが中にビートたけしの番組でたけしが『たこさん、好みの女性ってどんな感じ?』って聞く場面があって、たこさんが『研ナオコ』て答える場面があるんですが、その当時、うちの母親、友達の間でちょっと研ナオコに似てるなんて言われてたんですよ。
電話の相談相手はほとんど母親でした。
sukunahikona | 2018.08.07 23:20 | 編集
すくなひこなさんのブログは、いつ拝見してもとっても濃密な感じがします。
拝読していると、その世界に引き込まれてしまいます。
こんなエピソードがあったのですね・・・
すくなひこなさんの奥深さを感じさせられました。
Hide | 2018.08.13 16:53 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
| 2018.08.14 18:36 | 編集
たこ八郎さん、不思議に透明感のある方でしたよね。
価値観とか●●感というモノサシを持ってないような・・・漂っているような感じの方のように感じていました。

子供の時にそういう大人に接すると、その後の感性にずいぶん影響すると思えます。小さく世界を見ることから解放されそう。
ありきたりの無難な音なしか知らずに大人になるのとはずいぶん違うでしょう
はへほ | 2018.08.14 19:43 | 編集
Hideさん
書いてみて思ったのはこの話は普通のことではないんだなって思いました。今まで書かなかったのはたこさんの素顔を書くのがはばかれたのと、実はそれ以上に多胡さんの話が自分の中ではごくごく普通の日常として焼き付いていたので改めて書こうなんて思ってなかったのです。
奥深いのは私じゃなくってたこさんですよ。
sukunahikona | 2018.08.14 22:39 | 編集
はへほ さん

こんにちは
透明感。そういわれてみればたこさんって何色だったんだろう。とにかく不思議な人、例えようとしても似てる人はあったことないし、説明しようとすると天使だとか妖精だとか人間離れしたたとえしか思いつかないですね。
彼のこと嫌いな人っていたのでしょうか?今思い出したのですがテレビで僕のことを見て嫌いだって思う人は心が汚れてる人だから気にしない・・・みたいな超人的なことをぽつりとつぶやいたことを思い出しました。(もっと、不思議な言い回しで話してたと思いますが思い出せません。)
sukunahikona | 2018.08.14 22:54 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top